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伸二が研究室に入った時、
勇太はニコニコしながら本を読んでいた。
「よう!また勉強中?」
「まぁね〜♪なしたん?」
「来週の話と世間話でもしようと思って。」
「そっか〜。
あ、真奈美ちゃん、そこの皿こっちに置いといて。」
勇太の助手の真奈美が隣でレポートを書いていた。
「しかしお前ホント好きだよなぁ〜。そんなに面白い?」
「面白いよ〜?例えばね…」
勇太は読んでいた本を置いて、
近くにあった2つの白い粉とフラスコを用意した。
「この粉を入れて、ここに水を加えると…
ほら、透明な水だろ?」
勇太の実験は滑らかだった。
「んで、ここにこの粉を加えると…」
「おおっ!ピンクになった!」
「な?有り得ないことが可能になる。日常でもあるけど、
薬には法則があるんだ。
それを見つけたりするのは楽しいもんだよ。」
そう言って、勇太は実験道具を片付け始めた。
「ふ〜ん。確かに楽しいけどねぇ〜。
けど危険じゃん?なんか怖くって。」
勇太の動きが止まった。
「怖い?ふ〜ん。」
そう言って、別の白い粉の入った皿を持ってきた。
「伸二さ、ヒ素って知ってる?」
そう言って、勇太は手袋を履いた。
「知ってるよ。あれ怖いよねぇ〜。」
「これがそのヒ素。」
そう言って勇太は粉をつまんでみせた。
「へぇ〜。初めて見た。
これ、ちょっと飲むだけで死んじゃうんでしょ?」
「うん。真奈美ちゃん。」
勇太に呼ばれて真奈美は振り向いた。
「はい、あ〜ん。」
そう言って、勇太が腕を伸ばすと、
真奈美は口を開けた。
「お、おいっ…」
勇太はそのままつまんでいた粉を真奈美の口に入れた。
「何してんだよ!?」
「大丈夫だよ♪あれはただの美味しい塩だから。」
「は?…何だよ、びっくりさせんなよな。」
伸二はホッと一息ついた。
「お前も食べてみるか?ほれ。」
そう言って、勇太は伸二に腕を伸ばした。
伸二は口を開けた。
「これはダメ。」
そう言って、勇太は腕を引っ込めた。
「何?俺にはくれないの?」
「ダメだよ。」
勇太はつまんでいた粉をラットに食べさせた。
「だってこれ、ヒ素だから。」
そう言うと、ラットは苦しみだし、やがて動かなくなった。
「ぅ…」
「薬は怖くないよ。薬は俺達を助けてくれる。
真奈美ちゃんが俺のあげた塩を食べたのは、
真奈美ちゃんが俺を信頼してくれてるから。
伸二に出したヒ素を俺が引っ込めたのも、
俺と伸二の間にきちんとした繋がりがあるから。
俺に殺される気はしなかっでしょ?」
伸二は頷いた。
「でも、信頼が無ければ、
真奈美ちゃんは口を開けなかっただろうし、
きちんとした関係が無ければ、
俺は伸二にヒ素を食べさせててもおかしくなかった。
本当に怖いのは、繋がりが切れたとき。
繋がりが切れると、さっきのラットみたいになる。
人間の方が怖いよ。」
伸二は口を開けたまま聞いていた。
真奈美はラットを片付けていた。