合い鍵

ガチャ
急に玄関のドアが開いた。
雄太は驚きはしたものの、鍵を持っている人物を特定できたので、すぐに平常心に戻った。
そう、彩だ。
彩はドアに鍵をかけ、一瞬雄太の方を見ると、目を合わさないようにして靴を手で片方ずつ脱いだ。
左手には買い物袋が握られていて、下唇を噛んでいた。
「何しに来たの?」
雄太が鬱陶しそうな声で聞いたが、彩は一言も喋らずに台所へと向かった。
台所に入りすぐにまな板を取り出し、料理を始めた。
雄太は2度しか彩が台所に立つ姿は見ていないが、彩の料理は手際よく、料理の前後で台所がほとんど散らからない。
「おい。」
雄太の声を、彩はまた無視した。チッという雄太の舌打ちが聞こえた。
彩は下唇をギュッと噛み、何かをこらえるかのようにして、黙々と作業を続けた。
玉ねぎを使っていないのに、何度も何度もまばたきをしていた。
「飯ならもう食ったからな。」
そういうと、雄太は自分の勉強を始め、何も言わなくなった。
部屋には料理と鼻をすする音だけが響いていた。

ガンッ

彩が雄太の目の前に皿を置いた。皿には彩の得意なオムライスがのっていた。
「何?」
雄太が彩を睨みつける。彩は笑顔を作っているが、目尻と口が震えていた。
「何ですか?食べないよ?」
下唇をギュッと噛み、それでも無理して笑顔を作り、雄太にスプーンを手渡そうとする。
雄太はため息をつきながら、スプーンを受け取り、一口だけ食べた。
「これで満足か?」
雄太がスプーンを乱暴に置くと彩の口が小さく動いた。
「…そつき…」
「あ?」
「食べないって言ったじゃん…」
そう言って、彩は右手で鼻を隠した。
「何?毒でも入ってたのか?」
雄太はフッと鼻で笑った。
「入っ…てたかも…ね…」
途切れ途切れになりながらも、笑顔でそう言うと台所へ戻り洗い物を始めた。
彩が洗い物を終え、雄太のもとに戻ると、オムライスが半分だけ皿に載っていた。